一五五五年(弘治元年)に法衣装束商として創業。のちに友禅染を家業とし、研鑽を重ねて暖簾を守ってまいりました。 京友禅着物における随一の老舗として、技と美の継承につとめております。

千總は室町時代、京都室町三条にて法衣装束商として創業しました。
遠祖は奈良の宮大工で、春日大社の例祭である若宮おん祭に、「千切台」とよばれる威儀物(祭礼の威儀を増すために飾りつけられる諸具)を毎年製作し奉納しておりました。平安遷都にともなって京都へ移り、御所造営に携わったといいます。
宮大工をやめて法衣装束商の暖簾を掲げたのは弘治元年(1555)のこと。初代の千切屋与三右衛門は、ゆかりの千切台を商標として屋号は千切屋と名乗り、千切台を飾る花の一つである橘を家紋と定めました。

室町三条は本能寺や六角堂などの寺院に囲まれ、法衣商が軒を連ねる地でした。千總も東本願寺御用をはじめ、多くの顧客を得て、御装束師として商いを確立していきました。千切屋一門は隆盛を極め、江戸中期の元禄期には百余軒もの分家を擁すまでになります。

折しもそれは、友禅染が新しい染色技術として生まれ、世に流行し始めた時と重なります。

友禅染

江戸時代を通じた繁栄に大きな変化が訪れたのは明治の初め。東京遷都と廃仏毀釈の影響で、顧客であった寺院と公家からの注文が激減します。京都を覆った暗雲の時代に当主となった十二代西村總左衛門は、法衣から友禅染へと家業の軸足を移すとともに、友禅染の改革に乗り出します。まずは日本画家に下絵を依頼することで、それまでの定式化していた意匠を一新。また化学染料を用いた新技術「写し友禅」を用いて、精緻で色鮮やかな文様表現を可能にします。時代にふさわしい魅力を得た友禅染は、人々のきものに広く浸透し、染織を代表する技法となってゆきます。

また一方では千總が草案した「天鵞絨友禅」や、刺繍の技法を駆使した美術染織品にも取り組みます。それらは宮内省の御用命を拝し、あるいは万国博覧会等で海外でも高い評価を得るなど、市場をより広く、世界へも拡大するきっかけとなりました。

こうして明治時代から大正にかけて、「友禅の千總」としての名は揺るぎないものとなり、日本の染織業界全体をも活気付けていったのでした。

続く昭和時代には、千總の技術への想いを伝えるエピソードがあります。

戦時、挙国一致体制が敷かれると、きものは贅沢品として製造と販売が禁じられ、これにより京都の染織業は大きな打撃を受けます。十三代西村總左衛門は、商いの行く末もさることながら、職人とその技術が失われることを何よりも恐れたといいます。技術保存資格者となるのが、それらを守る唯一の方法と知った十三代は、「西村總染織研究所」を設立するなど東奔西走の末、きわめて厳しい条件を満たして認定を取得。戦時中も染織品の製作を続けることが出来たのでした。

千總に残された当時の染織品は、十三代の意を汲んだ職人たちが、持てるものすべてを注ぎ込んだ様と、技術の継承にかかる老舗の重責というものを、静かに、しかし切々と語りかけてきます。

西村總染織研究所
千總の友禅

第二次世界大戦後の高度経済成長期、そして平成にかけて、きものを取り巻く環境はふたたび大きく変化してきました。その中にあって千總は、きものづくりのさらなる高みを目指しています。

京友禅は日本の伝統美と高度な専門技術の結晶であり、千總には、その随一のものづくりがあります。養蚕農家や織元とつくり上げるこだわりの白生地、文様が正統に意味をあらわすデザイン、はんなりとして品格ある色彩感覚、熟達した染めや繍い。それらを統率する企画・製作力をもって最高峰のきものとしてまとめ上げられたもの───それが「千總の友禅」なのです。

千總が期すのは、よいきものをつくり続けることだけではありません。きものや和のデザインをより身近に楽しんでいただく提案、洋装やアートとのコラボレーション、培ってきたノウハウからプロデュースする新たなものづくりなど、きものの枠をも超えて取り組むべきテーマが無限に広がっています。

それらすべてを高い次元で実現することが、千總の代々当主が、そして日本という国が積み上げてきた伝統産業の貴重な資産を活かし、次代へと渡す希望になると考えます。

アートとのコラボレーション
千總 創業460年

平成27 年(2015)、千總は創業から460年を迎えました。

千總はこれまで「開物成務」の精神と「美・ひとすじ」の姿勢、「三方良し」の心を大切にしてまいりました。すなわち「人知を開発し、事業をよき方向に成しとげさせること」、そして「広く人びとを魅了する美しさを創り、提案すること」、さらには「お客様、お取引先、社員、いずれも幸福であること」です。

460 年という歴史は、まさにその三つの理念で成り立ってきたものでありましょう。歴史とは、時間の漠然たる継続ではなく、日々の地道な積み重ねであるとあらためて心に刻み、これからの時代も暖簾を守ってまいります。

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