千總のあゆみ

創業から460余年、時代ごとの美を映しとり、
技の粋を集めて多様な染織品を生み出してきました。
京都のまちに根ざした千總の歩みは、文化的な広がりと
美への追求のための知と技の奥行きをもって
過去、現代そして未来へとつながっています。

室町~江戸時代

千總は、1555年に法衣装束商として京都烏丸三条に創業しました。

宮大工であった遠祖が春日大社に威儀物の「千切台」を納めていた故事に因み、
「千切台」を商標とし、「橘」を家紋となし、屋号を「千切屋」と称しました。

江戸時代には、御装束師として東本願寺をはじめ門跡家や宮家へ装束を調進しました。

町内においては、年寄役などを務め、町政運営に深く関わっており、
この頃三条室町衣棚周辺は、千切屋一門の暖簾を掲げる分家が百余軒に及びました。

千切台

1136年にはじまり現在まで続く奈良・春日大社の若宮おん祭りにおいて、装束と参勤事例を授与される「装束賜り」の儀式に用いられる威儀物です。千切屋一門の遠祖は千切台を毎年奉納していました。八角形の台を3つ繋げた上に、千切花と呼ばれる紙帛の梅、橘、菊などがあしらわれています。

御装束師

御装束師とは、有職故実に基づいた装束の色や文様を熟知し、家柄や着用機会にふさわしい法衣や打敷を調進する役割を指します。

公家の装束や調度品、雅楽、料理、和歌など衣食住全般にわたる知識や教養・規範は、宮中の知識体系である有職故実の中に位置づけられました。

明治~大正時代

明治時代に入ると、千總は商いの主軸を友禅染めに移しました。
友禅染の下絵を日本画家に依頼し従来のデザインを一新させ、友禅染の新時代を築きます。

技術開発にも積極的に取り組み、天鵞絨友禅写し友禅、刺繍など
技術の粋を集めた大作を次々に発表し、国内外の博覧会で数々の賞を獲得。
美術染織品と呼ばれる分野のパイオニアとなりました。

大正時代には、国内では東京・横浜・神戸に、海外では中国・朝鮮・タイ・シンガポールに出張所を設立。
ヨーロッパ、東南アジア、中近東まで貿易の拡大を図りました。

下絵を日本画家に依頼

十二代西村總左衛門は、当時形骸化していた友禅のデザインを一新するため、岸竹堂を皮切りに、今尾景年や幸野楳嶺など、近代京都画壇を代表する画家たちに友禅の下絵を依頼しました。

千總からの仕事は、当時東京奠都や廃仏毀釈により仕事が激減していた日本画家の生活を支えることとなり、千總はパトロンとしての役割も担っていました。

天鵞絨ビロード友禅

天鵞絨地に友禅染めを施す技術です。天鵞絨の輪奈を切り部分的に起毛させて質感に差を生み出すことで、立体的に見える効果を得ることができ、より奥行きのある表現が可能になりました。

西洋の室内装飾を意識した壁掛けや衝立に天鵞絨友禅を施した千總の作品は、宮内省のお買い上げとなるなど高い評価を受けました。

写し友禅

明治時代に入ると、海外からもたらされた化学染料と糊を混ぜた色糊と型紙によって模様を染める写し友禅が開発され、多色で鮮やかな表現が可能になりました。

千總は明治12年に京都博覧会にて鴨川染として作品を発表するなど、いち早くその技法を取り入れました。千總の友禅は、その多彩さと日本画家の下絵による斬新な模様で人気を博しました。

昭和時代

昭和に入ると、挙国一致の軍事色が強まり京都の染織業は苦境を強いられます。

これを受けて西村總染織研究所を設立し、戦時下においても様々な技術の保存・継承に努めました。

戦後は懸命に守り繋いだその伝統の技でいち早く復興し、きものづくりに研鑽を重ねます。

また、京都・東京の2箇所から全国の百貨店へ商いの地盤を広げ、
高級呉服を扱うブランドとして高みを目指しました。

技術の保存・継承

戦争が始まると、昭和15年に施行された「奢侈品等製造販売制限規制令」によって、千總が手掛けるきものは贅沢品として製造と販売が禁じられました。

そんな中、十三代西村總左衛門は技術保存資格者としての機構を構え、「西村總染織研究所」を設立するなど、戦時中も染織品の製作を続けることが出来ました。

千總に残された当時の染織品からは、日々を生きるだけでも困難な時代においても職人が持てる技術の全てを尽くした気概を感じることができます。

研鑽

友禅染の最高傑作とされ、千總が代表を務める友禅史会所蔵の重要文化財「束熨斗文様振袖」を復元製作しました。

千總は、職人の技術向上と優れた意匠を後世に伝えることを目的として、この後も継続して小袖の復元製作に取り組みます。

高級呉服

敗戦後の苦難を切り抜けた千總は、高度成長による発展とともに新しい時代へ推移していきます。

昭和三十三年には皇太子殿下ご成婚に際して美智子妃殿下のご調度品の御用命を受けるという栄誉に浴しました。

献上申し上げた作品のうち、源氏物語に着想を得て御所解文様を描いた友禅着尺「初音御所解」のデザインは、現在も多くの人に愛されるロングセラーです。

昭和時代

昭和から平成にかけてきもの業界の縮小を受け、千總は新たな分野へ挑みます。

平成13年から始まった友禅アートエキシビジョンでは、国内外のアーティストや
ファッションブランドとのコラボレーションが反響を呼びました。

その後も新たな商品開発に取り組むなど、きものに留まらない友禅の可能性を追求し続けています。

一方で、純国産絹をはじめとする伝統産業の振興や、千總文化研究所を設立し
文化財の保存・活用を目指し、調査研究を行っています。

2020年、創業より美の追求を続けてきた地、
京都・烏丸三条に初のフラッグシップストア「千總 本店」をオープンしました。

コラボレーション

千總の図案家によるデザインや友禅染の技術を活用して、様々な分野とのコラボレーションを行っています。

純国産絹

今や日本国内で純国産絹の流通は1%以下と言われています。国産の絹を守るため、農林水産省の助成を受け、東北の養蚕農家から全国小売業に至る提携システムを構築しています。

千總 本店

創業の地で、これまで千總が大切に受け継いできた技術や文化、そして新しいものを生み出す創造性、アートなどたくさんの新たな美を発見し、お楽しみいただける場所として発信しています。